介護職として現場で経験を積んできた方が独立を考えるとき、候補に挙がりやすいのが訪問介護事業所です。利用者の自宅を訪問して、入浴や排せつ、食事の介助、掃除や調理などの生活援助を行うサービスで、通所介護のような広い建物が要らないため、比較的少ない設備で始められます。
ただし、訪問介護で介護保険の報酬を受け取るには、都道府県(または指定都市・中核市など)から「指定」を受ける必要があります。指定を受けるには、法人であること、決められた人数と資格の職員をそろえること、事務室などの設備を用意することなど、基準を満たさなければなりません。指定日は月の1日付けで、申請から指定までに数か月かかるのが一般的です。
この記事では、訪問介護事業所の開業を考えている方に向けて、法人格の要件、人員基準、設備基準、指定申請の流れと時期を順にまとめました。内容は、東京都福祉局の訪問介護の指定基準の資料と、介護保険事業者の指定申請の手引(ガイドブック)で確認したものです。申請の時期や必要書類は指定権者ごとに違うため、実際には事業所を置く地域の窓口に確認してください。
- 訪問介護の開業に法人格が必要な理由と、定款の注意点
- 管理者・サービス提供責任者・訪問介護員の人員基準
- 事務室や相談スペースなどの設備基準
- 指定前研修から指定日までの申請の流れと時期
- 開業前に準備しておきたいこと
こんな相談をよく受けます
ご相談者「ヘルパーとして経験を積んだので、自分で訪問介護の事業所を開きたいです」



「個人事業のままでも介護保険の指定は受けられますか?」
訪問介護で介護保険の指定を受けるには法人格が必要で、人員・設備の基準も満たさなければなりません。まずは法人設立と人員の確保から計画を立てていきます。
訪問介護の指定とは
訪問介護は、介護保険法にもとづく居宅サービスのひとつです。利用者が介護保険を使ってサービスを受け、事業所は利用者の自己負担分を除いた費用を、国民健康保険団体連合会を通じて請求します。この仕組みを使うには、事業所ごとに指定権者から「指定居宅サービス事業者」として指定を受けなければなりません。
指定を受けずに訪問して家事や身の回りの手伝いをすることは、介護保険外の自費サービスとしてはありえますが、介護保険の報酬は請求できません。介護保険のサービスとして訪問介護を行うなら、指定申請は避けて通れない手続きです。


法人格が必要
東京都のガイドブックでは、介護保険の各事業を申請するには、法人格を有する必要があると明記されています。個人事業主のままでは指定を受けられないため、株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人などの法人を設立してから申請することになります。
定款の事業目的に注意する
同じガイドブックでは、法人の定款や登記の事業目的に、申請するサービスが記載されている必要があり、事業目的に記載がない場合は申請を受け付けないとされています。新しく会社を設立する場合は、定款を作る段階で、介護保険法にもとづく居宅サービス事業などの文言を入れておきましょう。すでにある会社で始める場合は、事業目的の変更と登記が先に必要になることがあります。法人の種類によっては、定款の変更に所轄庁の認可が必要な場合もあります。
訪問介護の人員基準
訪問介護の指定を受けるには、事業所ごとに、次の職員を置く必要があります。人員基準は国の基準にもとづく全国共通の内容で、ここでは東京都の指定基準の資料をもとに整理します。
訪問介護員等:常勤換算で2.5以上
訪問介護員等(ホームヘルパー)は、事業所ごとに常勤換算方法で2.5以上を置きます。常勤換算方法とは、職員の勤務時間の合計を、その事業所の常勤職員の勤務時間で割って人数に換算する方法です。たとえば、常勤の職員2人と、常勤の半分の時間働く非常勤の職員1人がいれば、合計で2.5となります。非常勤の職員を組み合わせて満たすこともできますが、開業時点でこの人数をそろえられるかどうかが、最初の大きな関門です。
サービス提供責任者:利用者40人ごとに1人以上
サービス提供責任者は、訪問介護計画の作成や、訪問介護員への指示、利用者やケアマネジャーとの連絡調整を担う職員です。東京都の資料では、利用者40人(またはその端数)ごとに1人以上を置くとされ、利用者の数は前3か月の平均で計算します。開業当初は利用者が少なくても、最低1人は必要です。
サービス提供責任者は、常勤で専ら訪問介護の職務に従事する人の中から選びます。資格は、介護福祉士、実務者研修または介護職員基礎研修の修了者、訪問介護員養成研修1級課程の修了者、看護師・准看護師・保健師などとされています。野田市が掲載している国の通知では、平成30年度の見直しで、初任者研修課程修了者と旧2級課程修了者はサービス提供責任者の任用要件から外され、すでに従事していた人も平成30年度末までとされました。現在は初任者研修の修了だけではサービス提供責任者にはなれない点に注意しましょう。
同じ資料では、常勤のサービス提供責任者を3人以上置き、そのうち1人以上が主にサービス提供責任者の業務に従事しているなど、業務が効率化されている場合は、利用者50人ごとに1人以上とすることができるとされています。事業が大きくなってから関係してくる基準です。
管理者:常勤で1人
管理者は、事業所ごとに、専らその職務に従事する常勤の人を1人置きます。管理上支障がない場合は、ほかの職務と兼ねることができるとされています。開業時は、代表者や経験のある職員が管理者とサービス提供責任者を兼ねる形で始める事業所も多くあります。兼務の可否や勤務時間の数え方は、申請前に窓口に確認しておきましょう。
訪問介護の設備基準
訪問介護は利用者の自宅でサービスを行うため、事業所の設備の基準は多くありません。東京都の資料では、主に次の内容が示されています。
- 事業の運営に必要な広さを持つ専用の区画を設けること
- 利用の申込みの受付や相談に対応できる事務室または区画を確保すること
- 訪問介護の提供に必要な設備・備品を備えること
- 手指を洗う設備など、感染症の予防に必要な設備を備えること
事務所は、ほかの事業と同じ部屋を使う場合でも、訪問介護の区画がはっきり分かれていることが求められます。利用者や家族の個人情報を扱うため、書類を鍵のかかる棚で保管できるか、相談の内容がほかの人に聞こえない配置にできるかも考えておきましょう。賃貸物件を使う場合は、事業での利用が認められているかも事前に確認が必要です。
訪問介護の指定申請の流れ
サービスを提供する地域、利用者の見込み、職員の確保の見通しを整理する
定款と登記の事業目的に訪問介護などの事業を入れる
専用の区画、相談スペース、手洗い設備などを用意する
管理者、サービス提供責任者、訪問介護員(常勤換算2.5以上)をそろえる
申請の時期や必要書類、指定前の研修の有無を確認する
東京都では申請前の受講が必須とされている
申請書と付表、職員の勤務表や資格証の写し、平面図、運営規程などを提出する
人員・設備・運営の基準を確認され、現地の確認が行われることもある
月の1日付けで指定され、利用者との契約とサービスの提供を始める
申請の時期と指定日の関係
申請のスケジュールは指定権者ごとの運用です。東京都の例では、ガイドブックで指定日は月の1日で、申請した月の翌々月1日付けが指定年月日になるとされています。たとえば4か月後の1日に指定を受けたい場合は、4か月前の月末までに研修の申込みをし、3か月前ごろに研修を受け、2か月前の15日までに申請する、という流れが示されています。指定の通知は、指定日の前月末までに届くとされています。
同じガイドブックでは、申請の事務手数料はかからないとされています。申請は国の電子申請の仕組みで行う形になっていて、GビズIDの取得なども必要です。一方、名古屋市では居宅サービスの指定申請手数料を3万円としているように、手数料がかかる自治体もあります。こうした時期や手数料、方法は指定権者ごとに違うため、事業所を置く地域の窓口の手引で確認してください。
職員の確保は申請の前に
指定申請では、職員の名前や資格、勤務の予定を書いた書類を出します。つまり、申請の時点で、どの職員がいつから働くかが決まっている必要があります。一方で、指定が出るまでは介護保険の報酬は入らないため、採用の時期と人件費の負担のバランスを考えなければなりません。開業までの資金計画には、指定までの期間と、開業後に報酬が入金されるまでの期間の運転資金も見込んでおきましょう。
なお、開業の準備では、介護保険の利用料の受け取り方も決めておきます。介護保険の自己負担分は口座振替で受け取る事業所が多いですが、介護保険外の自費サービスを行う場合などは、カードやQRコードで支払えると利用者や家族の手間が減ります。必要になったときに使えるよう、初期費用をかけずに始められる「Airペイ」のような決済サービスを候補に入れておくのもひとつの方法です。
開業前に準備しておきたいこと
運営規程と契約書類を整える
指定申請では、事業の目的、職員の体制、営業日や時間、利用料、サービスを提供する地域、緊急時の対応などを定めた運営規程を提出します。あわせて、利用者に渡す重要事項説明書や契約書のひな形も準備しておくと、指定後すぐに契約を始められます。
ケアマネジャーとのつながりをつくる
訪問介護の利用者の多くは、居宅介護支援事業所のケアマネジャーがつくるケアプランを通じて紹介されます。開業前から、地域の居宅介護支援事業所や地域包括支援センターに、事業所の特徴や対応できる時間帯、サービスを提供する地域を伝えておくことが、立ち上がりを早くします。
職員が働き続けられる環境を考える
訪問介護は、職員が一人で利用者の自宅を訪問する仕事です。移動の手段や、訪問の合間の待機場所、困ったときの連絡体制を決めておくと、職員が安心して働けます。採用のときに、こうした働き方をわかりやすく伝えられるようにしておくことも、人材確保につながります。
キャッシュレス決済は必要に応じて用意する
訪問介護では、介護保険サービスの自己負担分は、月ごとにまとめて口座振替や振込で受け取る形が一般的です。そのため、店舗のように決済端末が必ず必要になるわけではありません。
一方で、介護保険では対応できない家事の手伝いや、通院の付き添い、見守りなどを自費サービスとして提供する事業所もあります。こうしたサービスでは、利用者の家族が遠方に住んでいて、支払いをカードで済ませたいという声もあります。自費サービスを始めるときに検討するとよいでしょう。
決済端末は、iPadやスマートフォンとカードリーダーで使えるサービスが主流です。代表的なのが「Airペイ」と「Square」で、どちらもカード・電子マネー・QRコードにまとめて対応しています。
サロン・店舗でよく使われている決済端末
よくある質問
- 個人事業主でも訪問介護事業所を開業できますか?
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介護保険の指定を受けるには法人格が必要です。東京都のガイドブックでも、介護保険の各事業を申請するには法人格を有する必要があるとされています。株式会社や合同会社、NPO法人などを設立し、定款の事業目的に訪問介護などの事業を入れてから申請します。
- 訪問介護員は何人必要ですか?
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事業所ごとに、常勤換算方法で2.5以上が必要です。常勤の職員だけでなく、非常勤の職員の勤務時間を合わせて計算できます。このほかに、常勤の管理者と、利用者40人ごとに1人以上のサービス提供責任者を置きます。
- サービス提供責任者になれるのはどんな人ですか?
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介護福祉士、実務者研修または介護職員基礎研修の修了者、訪問介護員養成研修1級課程の修了者、看護師・准看護師・保健師などです。常勤で専ら訪問介護の職務に従事する人の中から選びます。
- 申請してから指定までどれくらいかかりますか?
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指定権者によって違います。東京都の例では、申請した月の翌々月1日付けで指定され、申請の前に指定前研修を受ける必要があります。研修の申込みから数えると、4か月ほど前から準備を始める流れが示されています。
- 指定申請に手数料はかかりますか?
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東京都のガイドブックでは、申請の事務手数料はかからないとされています。法人の設立費用や、事務所の準備、職員の採用にかかる費用は別に必要です。ただし、名古屋市のように居宅サービスの指定申請に3万円の手数料がかかる自治体もあるため、指定権者の窓口で確認してください。
開業準備のご相談はエアライフへ
訪問介護事業所の立ち上げでは、利用者の確保と同じくらい、職員の採用が大きな課題になります。指定申請の準備と並行して、事業所の考え方や働き方を伝えるホームページや、Googleマップの情報を整えておくと、ケアマネジャーや求職者に事業所を知ってもらいやすくなります。
エアライフでは、開業前のホームページ制作、Googleマップ(Googleビジネスプロフィール)の整備、求人ページの作成など、開業前後の情報発信をお手伝いしています。サービスを提供する地域や対応できる時間帯の伝え方、職員募集のページづくりなど、介護事業所ならではの発信もあわせてご相談いただけます。
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